キャピトル・レコードの忘れられたアルバム〜『Songs Without Words』と謎の作詞コンテスト(後編)
アメリカのキャピトル・レコード (Capitol Records) が、
作詞を募るという名目で
『Songs Without Words(言葉のない歌)』という
レコード・アルバムを1949年7月に発売し、
コンテストの応募は、同年10月31日に締め切られました。
採用された人への賞品は、
1:1000ドルの先行印税
2:出版契約
3:キャピトル・レコードのアーティスト達による楽曲録音
という項目が提示されていました。
ところが、その後、優勝者どころか、作詞が採用された人など、
何の情報も発表されないまま、
時と共に忘れ去られた・・・までが前編の流れでした。
1949年の作詞コンテストから約12年が経った頃・・・
キャピトル・レコードは、
1961年に再び作詞コンテストを開催しました。

今度は10曲、つまり10名もの作曲家に声をかけて
楽曲を提供させ、同名タイトルのLPレコード
『Songs Without Words Contest』を作りました。
ただし、今回の賞金は、前回の半分の500ドルに下げられています。
先の1949年のSP盤アルバムは、
通常の他のアルバムより約20倍もの売り上げがあったとされ、
今度の作詞コンテストのLPレコードでも、
同様の売り上げがあることと見込まれていたそうです。
しかしながら、実際にその1949年の時に応募した人々は、
再び、キャピトル・レコードによる作詞コンテストの
話を知れば、きっと思い出すのではないでしょうか。
1961年度の作詞コンテストのレコードには、
このような内容が書かれています。
(日本語訳にて要約)
簡単!楽しい!有名になれるかも!?
アメリカのトップ作曲家によるメロディーに
歌詞をつける絶好のチャンス!
ポップス、カントリー&ウエスタン、
ロックンロールの3ジャンルのメロディーが
収録されており、好きなジャンルに作詞して応募可能。
作詞で最も難しい「作曲家との出会い」の問題を解決!
このアルバムで10人の一流作曲家とコラボできる。
既に、このメロディーにインスピレーションを
受けた歌詞が収録されているので、参考にできる。
受賞者には豪華特典!
1:500ドルの前払い報酬(出版権に対する支払い)
2:追加の作詞印税を受け取る契約
3:受賞曲は楽譜として出版
4:各カテゴリーから最低1曲(計3曲以上)が
キャピトル・レコードのアーティストによってレコーディング
応募方法
アルバム収録のメロディーを聴く
どのカテゴリー(ポップス、カントリー&ウエスタン、ロックンロール)に
応募するか決める(すべて応募も可)
アルバムに記載された公式ルールをよく読む(レコード販売店でも入手可能)
アルバムに付属の公式応募用紙を使用(または販売店で追加入手可)
夢の作詞家デビューを目指して、今すぐチャレンジ!
そして、10人の作曲家は以下の人物です。
今回は顔写真がありません。
ポピュラー部門(6人)
ジョニー・マーサー (Johnny Mercer)
ジェームズ・ヴァン・ヒューゼン (James Van Heusen)
ハリー・ウォーレン (Harry Warren)
ジーン・デ・ポール (Gene de Paul)
ジェイ・リビングストン&レイ・エヴァンス (Jay Livingston & Ray Evans)
ジミー・マクヒュー (Jimmy McHugh)
ロックン・ロール部門(2人)
バリー・デヴォーゾン (Barry DeVorzon)
ウィンフィールド・スコット (Winfield Scott)
カントリー&ウエスタン部門(1人と1組)
オードリー&ジョー・アリソン (Audrey & Joe Allison)
シンディ・ウォーカー (Cindy Walker)

レコードを入れる袋に、ルール説明を記載、
裏面に応募のための項目があります。


販売店から新たに袋をもらわないと困りますよね・・・
再度の作詞コンテストを発表した1961年、
キャピトル・レコードの副社長だったアラン・リヴィングストンが、
1949年のコンテストでは、
ポール・ウエストンの楽曲のみ、詞が付けられて、
翌年に吹き込んだレコードがヒットした旨を語っていたそうですが、
その詞を付けた人物さえ、当時発表されていないのでした。
それらの背景を想像した時、ポール・ウエストンと
ジョー・スタッフォードの夫妻のみ、
きっと自分達のために詞を付けてくれた方へ、
応えたのではないか?と筆者は思えましたが・・・?
結果として、1961年度の作詞コンテストの
LPレコード『Songs Without Words Contest』は、
あまり売れなかったとされ、
今回も締め切り(1962年1月31日)の後、
採用された人物の発表は、
一切行われなかったとされています・・・・
1949年の作詞コンテスト同様、1961年の
作詞コンテストのためのLPレコードも、
「奇妙な物語」を持つ、
ミステリアスなレコード・アルバムになってしまいました。
☆
この記事にて御紹介している
1961年度の作詞コンテストのLPレコード・アルバムも、
経緯の想像の楽しみと共に、ぜひ御堪能いただきたいと思い
復刻CDを作らせていただきました。
『資料録音(12)』キャピトル・レコードのコンテスト続編と知られざる広告(XP-10012)
そして、この記事の「前編」で御紹介している
貴重なコマーシャル・レコードから、
男性歌手によるハミングの部分と、
この「後編」記事でも触れております
『Songs Without Words(言葉のない歌)』
から、ポール・ウエストン作曲のものに詞が付けられ、
ポール・ウエストン楽団による演奏をバックに、
彼の奥さんであるジョー・スタッフォードが
歌っている稀少録音も含めました。
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