マーキュリー・レコードからのビジネス・レター(前編)
マーキュリー・レコード(Mercury Records)というのは、
アーヴィング・グリーン、パール・アダムス、
そしてアーサー・タルマッジの3人によって、
1945年にイリノイ州シカゴで設立された
アメリカのレコード会社です。
1960年代前半までのポピュラー音楽には
色々なものがあり、この時代の作品が好きな筆者には、
魅力的なレーベルのひとつでもあります。
別サイトの『懐的音館』で発表させてもらっている復刻CDには、
ラルフ・マーテリー楽団をはじめ、
デヴィッド・キャロル楽団ほか、色々な作品があります。
ヴォーカルものでは、
既に他で記事として掲載しているザ・ダイアモンズをはじめ、
プラターズ、トニー・マーティン、パティー・ペイジ、
ダイナ・ワシントン、サラ・ヴォーン他、素晴らしいアーティストが
勢ぞろいしているレコード会社でした。
1961年にフィリップスに買収されたことで、イメージも
様変わりしてしまいましたけれども、クインシー・ジョーンズから
依頼を受けたタク・シンドが、自身の楽団で吹き込んだアルバムも
1枚あるほどで、変化したなりの面白い作品も多数ありました。
さて、ここでは、まだフィリップスに買収される前の時代・・・
1956年のビジネス・レターを取り上げてみますが、
その前に、当時のマーキュリー・レコードが使っていた
ビジネス封筒をお見せします。
左上に社名と住所が載っているだけで、ロゴや宣伝などはありません。
裏面は、ガムテープのようなものが貼られているだけ。
消印は、1956年1月11ですが、
何の書類が入っていたのかまでは、もう分からないです・・・
マーキュリー・レコードから
送られて来ていた書類(ビジネス・レター)の中から、
まず最初は「Mr.Operator」宛てとされたK.S.Myers という
人物からのもの。日付は1955年1月6日となっていますが・・・
この宛名「Mr.Operator」というのは、
レコード店のオーナーという意味でしょうね。書かれているのは、
「もう一度、新しいヒットの可能性があるレコードの
発売前のサンプルをお送りします・・・云々」ということで、
つまりヒットしそうな新譜のサンプル盤(見本盤)や
情報を提供するということのようです。
そして、そのヒットしそうなレコードのアーティスト情報などが
書かれています。
まずはピアニストのジャン・オーガストと
リチャード・ヘイマン楽団が共演した吹き込みの説明があり、
「このレコードは、あなたに金銭的利益をもたらすだろう」と
書かれています。
次に、コーラス・グループのクルー・カッツの吹き込んだ
ロックンロールのレコードは、大きなヒットが予想され・・・
マーキュリー・レーベルの新人、レン・ドレスラー(声優)が
吹き込んだ「These Hands」は、ラジオのDJ達から
絶大な支持を得ていて、これとカップリングされる「Chain Gang」は、
あなたにとって重要な可能性のあるレコードである・・・と、
いうこと等が書かれていますが、
このレン・ドレスラーのレコードは事実、この後に大ヒットしました。
あとは、優れた作品としてレコードが売れ続けている定番として、
ラルフ・マーテリー楽団の名前があげられていて、
「ここに記載したアーティストや、そのレコードには、
これから多くの収益をもたらすであろう」ということが書かれています。
最後に、「今月発売されるマーキュリー・レコードの
サンプル盤を聴いて、マーキュリー・ディストリビューター
(マーキュリー・レコード専門の卸業者、流通業者という意味)に
すぐ発注してください」という内容で締めくくられております。
でもこの書類、間違いなく本物なのですが、
文中に出て来るレン・ドレスラー(Len Dreslar)の
ドーナツ盤(SP盤も同時に出ていたようです)は、
録音が1955年12月15日、発売は1956年1月なので、
書類にある日付、
1955年1月では早過ぎるため・・・きっと、
1956年1月の間違いなんでしょうね(苦笑)
マーキュリー・レコード本社からの書類でも、
そんな年号の間違いもあった書類ですが、
当時のレコード販売店には、そんな売り込みをしていたのが分かる
資料の一部でした。
(続く)