「レコードの種類と歴史」
トーマス・エジソンが、現在のレコードの
元となった円筒形の記録媒体(上下振動)を
蓄音機とともに発明したのは1877年のことでした。
それから10年後、科学者のエミール・ベルリーナによって、
レコードは円筒形から複製(プレスの)しやすい
円盤形へと発明され、
さまざまな改良と試みがなされて来ました。
その歴史の一部になりますが、以下
それぞれのレコードについて御紹介します。
また、部分的に各記事で取り上げて御紹介することもあります。
SPレコード(Standard Playing Record)
円筒形から円盤形になった最初のスタイルで、
蓄音機でかけられたレコードです。
主原料は、シェラックというカイガラムシの分泌するものから
精製した天然の樹脂が一般的ですが、
人工的に作った樹脂や、カーボンなどを合わせた混合物もあります。
クラシックは12インチ(30センチ)、
ポピュラーは10インチ(25センチ)であることが多く、
他にも7インチなど、いくつかのサイズがあります。
材質上、レコード針が音溝を擦る雑音(スクラッチ・ノイズ)が目立ち、
盤は重く、もろくて割れやすいのが欠点です。
回転数は1分間に78回転ですが、時期や会社によっては
80回転だったものもあります。
1925年になると、電気による「吹き込みと再生」が可能になり、
音質は飛躍的に良くなります。
でも、1950年頃までは、まだマスター録音に磁気テープを
使っていない(ラッカー盤を用いている)ため、
編集や加工が出来ず、演奏に失敗すると
始めからやり直さなければならない一発録音の時代でした。
そんなSP盤は、アメリカでは1956年頃に、
日本国内では1963年で製造が中止されています。
復刻CD『モートン・グールドの音楽』(EW-175)や、
『SP盤カフェ』(EW-208) で、SP盤の音の作品をお楽しみになれます。
後者の中に電気吹き込み前の録音が1曲あります。
LPレコード(Long Playing Microgrove Record)
米CBSコロムビアが実用化に成功した
「33と1/3回転」の長時間演奏レコードです。
サイズは、10インチと12インチ。
第二次大戦時に製造研究が進んだ塩化ビニールを
材料に使ったことで、SPレコードに比べて
録音できる周波数が広がり、
レコード針が音溝を擦る雑音も少なくなりました。
また、音溝を細く小さくさせると同時に、
回転数も落としたことで、レコードの収録時間を伸長させています。
1948年6月にアメリカで発表、8月から発売。
日本では、洋楽が1951年3月、邦楽は1953年8月から、
日本コロムビアより国産化されました。
上記、日曜洋画劇場のエンディングで使われていたレコード演奏の
モートン・グールド(Morton Gould)『curtain time』は、復刻CD
『カーテン・タイム』So in Love / 究極のアルバム(VMDT-229)にて
お楽しみいただけます!
EPレコード(Extended Playing Record)
米RCAビクターが1949年2月に発表、
3月から発売した45回転のレコードです。
材質はLPレコードと同じですが、
サイズは7インチ(約17センチ)で、
中央の穴は1インチ半ほどの大きなものになっています。
見た目がドーナツのようなことから、
ドーナツ盤とも呼ばれ、
演奏時間がLPレコードに比べ少ないので、
ポピュラー音楽用に普及しました。
国産の洋楽は1954年5月に日本ビクターから、
邦楽は1954年9月に日本コロムビアより発売されています。
アメリカ盤では、片面2曲が収録され、
厚紙のジャケットが付いているものをEP盤、
片面1曲で絵柄のついたジャケットの無い(袋のみの)ものを
シングル盤として区別することがあります。
また、後に出て来たスタイルですが、LPレコードと
同じ回転数で、7インチのレコードはコンパクト盤と呼ばれます。
16回転のレコード (16 2/3rpm record)
アメリカでは、ちょうどSP盤が
作られなくなって来た1956年頃、SP盤と
入れ替わるように、一時的に出て来たレコードがありました。
それが、16と2/3回転のレコードです。
これはもともと、アメリカのメーカーが考えた、
ある商品がきっかけで作られるようになった規格でしたが、
商品の価格が高かったらしく、
あまり普及しなかったため、短期間で消えてしまったようです。
なお、この商品のためのレコードは、日本で作られていません。
しかしながら、各オーディオ・メーカーが
この回転数でかけられるプレーヤーを作ったため、
本の朗読やドキュメントなど、
あまり音質にこだわらないような内容が収められたレコードが
一般市販されるようになり、それは日本でも
同じように作られていますが・・・当時、そんな回転数の
レコードが日本で発売されていたことを知る方は、
ほとんど、いらっしゃらないようです。
また、アメリカ国内のレストランやオフィス、
スーパーマーケット、ホテル、銀行、工場などで流す、
業務用バック・グラウンド・ミュージックの
長時間(一般市販品でない)レコードでも、
この回転数が使われていました。
その業務用で使われていた16回転のレコードを作っていた会社の音源を復刻CDにさせてもらったのが、『アメリカ国内のレストランやオフィス、工場等で1960年代に流されたバック・グラウンド・ミュージック(シーバーグ編)』(ST-600)です。現在となっては、とても貴重な音源になり、当時のアメリカのムードとしても、そのままをお楽しみいただける逸品です!
ソノシート(シート・レコード)
一般的には、フィルム状の薄いレコードのことを言いますが、
もとはフランスのパリで誕生した「まわる雑誌ソノラマ」に挟まれた
レコードのことです。
「ソノラマ」は、音という意味のラテン語「Sonus」と、
見ものという意味のギリシャ語「Horama」を
合わせたという造語だそうで、
見て読んで聴くというスタイルの雑誌として1959年に登場しました。
写真記事を掲載した冊子状の雑誌の中に、
フィルム状のレコード(ソノシート)が綴じられていて、
ターンテーブルに雑誌ごと乗せてかける訳です。
日本では、歌う雑誌として『KODAMA』が1959年11月に創刊。
朝日新聞が設立した朝日ソノプレス社が、
フランスのソノプレス社と提携した『朝日ソノラマ』は12月に
創刊されました。このソノシートの厚みは0.1ミリです。
ソノシートは、ふつうのレコード盤よりも安価に作ることが
出来る上、取り扱いも手軽なため、
雑誌やパンフレットなどに挟むものといった、多くの用途に
作られるようになりました。
宣伝配布用の自主制作盤が多く、企業のコマーシャルソングを
吹き込んだものや、冷蔵庫などの家電商品の説明などにも使われています。
また、ソノシートをハガキ状にしたもの等もありました。
ステレオ・レコード
アメリカでステレオレコードの技術が公開されたのが
1957年の末でした。翌年の1958年からは、アメリカにある
大小の各レコード会社が競って、
LPレコードに「STEREO」の文字を入れ始めるものの、
モノラル録音を単に疑似ステレオ(電気的ステレオ)化
したものだったり、
純粋なステレオ録音ではなく、左右別のトラックに分けただけ
のLPレコードも案外多く出回っていました。
国産洋楽のステレオLPレコードは、
1958年8月に日本ビクターから、
翌月に日本コロムビアから発売されています。
ソノシートでの「初めてのステレオ盤」
ソノシート(レコード)も始めはモノラルでしたが、
やがてステレオ録音の盤として作られるようになります。
写真のソノシート・ブックは、国産初のステレオ化ソノシートです。
発売は1962年(昭和37年)2月。
この『ステレオで今宵を』が、日本で発売されたステレオの
ソノシート第一号となりました。
冊子状のブックに、片面ソノシートが4枚付属しています。
これには、「モノラール(モノラル)の器械でお聞きになっても
いっこうにさしつかえはございません。」
と書かれているのですけれど、
ステレオ盤をモノラルのカートリッジで再生すれば、
音溝を破壊してしまうため、ひょっとしたら、当時の人達は
それでソノシートの音溝を破壊してしまっていたのかも
知れませんね(苦笑)
2023年4月6日 追記:
上記 “ステレオのソノシート” の情報は、日本ビクターから当時発売された
現物をもとに発表させていただきました。
しかしながら、1962年よりも前に発売された国産ソノシートの中には、
「ステレオ」と明記されたものもありますが、当時は本当の意味のステレオではない、
電気的な処理をした「疑似ステレオ」も多かった事もありますため、
詳細の結果は未確認でありますけれども、
現時点では、一応 日本ビクターによる1962年のソノシートが最初
であったとさせていただきました。
2024年3月25日追記:
ステレオのソノシートは、上記に記載した通り、日本ビクターが
初めてのステレオ・ソノシートとして出した以前にも
存在していることを確認していますが、現物の確認もなかなか大変なので
気長にして行こうと考えておりました(笑)
でも最近、手持ちの中に、
「世界で最初のテクニカラー 総天然色のステレオ・LPレコード」と
印字された帯のあるソノシート冊子を見つけました。
これは、ソノシート(盤)に絵柄が印刷されているタイプで、
そのステレオ盤ということになります。
上記の日本ビクター版よりも一年前の、1961年(昭和36年)発売に
なっておりましたため、このスタイルでの「ステレオ盤」は、
これが最初ということで間違いないようです。
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© 2023 磯崎英隆 (Hidetaka Isozaki)